大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和56年(タ)318号 判決

原告

水主壽子

原告

水主光英

原告

宇山匡子

原告

水主邦彦

右四名訴訟代理人

福本基次

被告

四塚利樹

被告

四塚朋子

右法定代理人親権者

四塚清子

右両名訴訟代理人

市木重夫

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判〈省略〉

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  水主庄一(以下「庄一」という)は、昭和五四年二月二一日死亡した。

2  原告水主壽子は庄一の妻であり、その余の原告らは庄一の子である。

3  被告らの母四塚清子は、庄一の遺言書を保管しているとして、京都家庭裁判所に検認の請求をなし、昭和五五年一二月三日、同裁判所において検認を経た。右遺言書には、被告らを庄一の子として認知する旨の記載があり、これに基づいて、遺言執行者市木重夫は、昭和五六年六月四日、庄一の被告らに対する認知の届出をなし、その旨戸籍に記載された。

4  右遺言書には、被認知者二名の生年月日について加除訂正がなされているところ、右各訂正箇所の上欄に「一(壱)字訂正」の附記及び押印があるけれども、右各附記部分に庄一の署名がなされていない。

5  右各訂正は、民法九六八条二項に定める方式に違背するものであるから、右遺言書による遺言はその全部が無効であり、庄一の被告らに対する認知は効力を生じない。

6  仮に、右各訂正がないものとして考えてみても、訂正前の右遺言書に記載してある被認知者の生年月日は、被告らのそれと異なるから、被認知者として被告らを特定表示したものとは言えない。

よつて、原告らは、昭和五六年六月四日遺言執行者市木重夫届出にかかる、庄一の被告らに対する遺言による認知が無効であることの確認を求める。〈以下、事実省略〉

理由

一〈証拠〉によれば、請求原因1ないし3の事実が認められるほか、次の事実が認められる。

庄一は、昭和五二年五月一三日、自筆による遺言書(以下「本件遺言書」という)を作成したものであるところ、本件遺言書は別紙のとおりで、その記載中、(1)被認知者である四塚利樹の生年月日のうち、「昭和三十四年」の四が斜線で抹消のうえ、その左横に「三」と加筆され、(2)同じく四塚朋子の生年月日のうち「昭和三十八年」の八が横線で抹消のうえ、その左横に「七」と加筆され、(3)「株式各一名弐万株宛を相続分とする」との文言のうち、「弐」が斜線で抹消のうえ、その左横に「四」と加筆され、更に、右各訂正部分の上欄に、右(一)及び(三)については「壱字訂正」と、右(二)については「一字訂正」とそれぞれ附記され、かつ、右各訂正部分と附記部分にいずれも庄一の印が押捺されている。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

二そこで、本件遺言書による遺言の効力について検討するに、右認定の事実によれば、本件遺言書中の右各訂正は、加除変更の場所を指示し、これを変更した旨を附記してあるものの、特にこれに署名した形跡は見あたらない。従つて、この点において、右各訂正は、民法九六八条二項に定める自筆証書遺言の加除変更の方式に違背しているというべきである。なお、被告は訂正した旨の附記に対する署名に代えて押印で足るかのような主張をする。立法論としては傾聴に価するが、民法九六八条二項の規定に鑑み、所論は採用できないというべきである。

そして、右訂正の記載の(1)及び(2)は被認知者の生年月日の記載を訂正したものであり、同(3)は相続分ないし分割方法の指定としての株式数の記載を訂正したものであつて、いずれも、遺言書の記載自体から明白な誤記の訂正とはいえないものである。従つて、本件では、明白な誤記の訂正の場合として事を論ずるという訳には行かないのであつて、本件遺言書の右各訂正の記載は、いずれもその効力を生じないと解するのが相当である。

そうだとすれば、遺言書の訂正がないものとして、本件遺言の効力を検討することになるが、〈証拠〉によれば、右遺言書における被認知者両名の生年月日がいずれも一年異なることになるところ、本件遺言書には被認知者両名の姓名、本籍、住所が記載されており、被認知者が被告両名を指すことは明らかであつて、生年月日に相違があるとしても被認知者を他人と誤認混同する虞れはないと認められるから、被認知者の特定に欠けるところはなく、右生年月日の相違をもつて本件遺言の効力を否定することはできない。

また、本件遺言書中株式数の訂正の点については、その訂正がない場合、指定された相続分ないし分割方法としての株式の数が異なることになるだけで、これによつて遺言書が無効となるとはいえない。

以上のとおり、本件遺言書はその効力に欠けるところはなく、これによる認知の効力も有効なものである。すなわち、被告両名は本件遺言により認知されたものである。〈以下、省略〉

(石田眞 松本哲泓 河合健司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例